行方不明の相続人がいて実家が売れないとき 不在者財産管理人の選任と売却の許可
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相続人のひとりが行方不明のままだと、実家を売る話は進みません。遺産をどう分けるかの話し合いに、その人が加われないからです。道は主に2つあります。家庭裁判所に不在者財産管理人を選んでもらう方法と、一定の条件で行方不明の人の持分を裁判所の手続で整理する方法です。
前者では、管理人が家庭裁判所の許可を得れば、遺産の分け方を決めたり、不動産を売ったりできます。この記事は一般的な情報で、個別の判断は弁護士・司法書士などの専門家にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。
行方不明の相続人がいると売れない理由
相続人が複数いるとき、相続財産はその人たちの共有になります(民法898条)。実家の土地と建物も、まず共有の状態に置かれます。

共有の状態を終えるのが遺産分割です。民法907条は、共同相続人はいつでも協議で遺産の全部または一部を分割できるとしています。協議が調わないとき、または協議ができないときは、各相続人が家庭裁判所に分割を請求できます。
各相続人は、相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。行方不明の人にも、相続分に応じた持分があります。
行方不明の人は、話し合いにも書類への押印にも加われません。ほかの相続人だけで、実家をまるごと売ることはできません。ほかの相続人が自分の持分だけを売る方法はあります。その場合の注意点は、共有持分の記事にまとめました。
実家の名義が亡くなった人のままなら、相続登記も済ませておく必要があります。期限や過料は、相続登記をしていない実家の記事で説明しています。
不在者財産管理人を選んでもらう
民法25条は、従来の住所または居所を去った人(不在者)が財産の管理人を置かなかったとき、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求により、財産の管理について必要な処分を命じることができると定めています。この「必要な処分」の代表が、管理人の選任です。

裁判所のページには、申立ての内容が次のように書かれています。
- 申立てができる人: 利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる人、債権者など)と検察官
- 申立先: 不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所
- 申立手数料: 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手: 裁判所ごとに額が違う
- 予納金: 不在者の財産で管理費用や管理人の報酬をまかなえない見込みのとき、申立人が納めることがある
主な必要書類は、申立書、不在者の戸籍謄本と戸籍附票、管理人候補者の住民票または戸籍附票、不在を示す資料、不在者の財産の資料(不動産の登記事項証明書や預貯金の残高がわかる書類など)、申立人の利害関係を示す資料です。申立ての前に用意できない書類は、あとから出せる場合があります。
管理人に選ばれた人は、管理する財産の目録を作らなければならず、その費用は不在者の財産から出ます(民法27条)。家庭裁判所は、管理人に担保を立てさせたり、不在者の財産から相当な報酬を与えたりすることもできます(民法29条)。
売却や遺産分割には家庭裁判所の許可がいる
選ばれた管理人は、何でもできるわけではありません。民法103条の権限の定めのない代理人と同じく、保存行為と、財産の性質を変えない範囲の利用・改良にとどまります。

それを超える行為は、民法28条により、家庭裁判所の許可を得てするものとされています。裁判所のページには、この許可(権限外行為許可)を得ると、管理人は不在者に代わって遺産分割をしたり、不動産を売ったりできると書かれています。
管理人の役目は、裁判所のページによると、不在者の財産を保存し、管理することです。申立書には管理人の候補者を挙げられますが、選ぶのは家庭裁判所です。
実家を売る流れは、おおまかに次の順になります。
- 家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる。
- 管理人が決まる。
- 管理人が、遺産分割の協議に加わるための許可、または不動産を売るための許可を申し立てる。
- 許可を得たうえで、管理人を含む相続人全員で協議や契約を進める。
許可の判断は家庭裁判所が個別に行います。許可を得る前に確定的な売買契約を結ばない点は、認知症の親の家の記事で見た後見の場合と同じ考え方です。許可の申立ての書類や進め方は、選任を受けた家庭裁判所に確認してください。
管理人を立てずに整理できる場合もある
不在者財産管理人以外の手続も、条文に定められています。ただし、使える条件は限られます。

ひとつは失踪宣告です。民法30条は、不在者の生死が7年間明らかでないとき、家庭裁判所は利害関係人の請求により失踪の宣告ができると定めています。宣告を受けた人は、期間が満了した時に死亡したものとみなされます(民法31条)。死亡とみなされる効果が相続にどう響くかは事案で変わるため、使う前に専門家に確かめます。
もうひとつは、所在不明の共有者の持分を整理する制度です。民法262条の2は、共有者が他の共有者を知ることができない、またはその所在を知ることができないとき、裁判所が請求した共有者にその持分を取得させる裁判ができると定めています。262条の3には、持分の譲渡の権限を与える裁判があります。
相続で共有になった場合は、条件が付きます。法務省の資料によると、相続人が行方不明のときは、相続開始から10年を経過したときに限り、この持分取得・譲渡の制度を使えます。同じ資料は、10年がたつ前でも、行方不明の人の持分について所有者不明土地・建物管理人を選任することはできると書いています。
どの手続が合うかは、行方不明の期間、相続開始からの年数、ほかの相続人の人数で変わります。手続の選び方は、専門家に事実関係を見せたうえで決めるのが確実です。
費用と準備の見通し
申立てに必要な費用の目安は、収入印紙800円分と郵便切手です。予納金は、不在者の財産が足りないと見込まれるときに求められるもので、裁判所のページには、予納金の金額は書かれていません。専門家に頼む場合の報酬は、依頼先ごとに違います。

申立ての前に集めておくと進みやすいものは、次のとおりです。
- 亡くなった人と相続人全員の戸籍
- 実家の登記事項証明書
- 行方不明の人を最後に確認した時期と場所、探した経緯のメモ
- 実家の査定書(売る場合の許可の資料になる)
実家に傷みやゴミなどの問題があって、手続と並行して売り方を考えたいときは、買取の査定を比べる方法もあります。
出典
- 民法(e-Gov法令検索・25条〜31条、103条、262条の2、262条の3、898条、907条) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 裁判所「不在者財産管理人選任」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_05/index.html
- 法務省「民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について」 https://www.moj.go.jp/content/001444020.pdf
いずれも2026年11月4日に確認しました。手数料や郵便切手の額は変わることがあるため、申立ての前に家庭裁判所のページで確かめてください。